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事務所通信Vol.6 part3(2010年7月)

■今月の気づき

ゲゲゲの女房のおおらかさ、ゲゲゲのたくましさに励まされ


◆思わず引き込まれる一押しドラマと言えば

今NHKドラマと言えば、福山雅治主演の大河ドラマ「竜馬伝」が何と言っても注目されています。

しかし滅多にテレビドラマを見ない私が、思わず引き込まれているNHKドラマがあります。それが多くの主婦の皆さんが楽しみにしている朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」です。

毎週土曜日にはBSで一週間分を放映しており、ビデオを駆使して私も最近見始めましたが、とても心あたたまるひと時となっています。

ご存知「ゲゲゲの鬼太郎」の作者水木しげる(本名 武良 茂)の奥様 武良布枝(むら ぬのえ)さんのエッセイを原案に、漫画家水木しげる夫婦の苦しいながらもほのぼのとした暮らしぶり、たくましい水木しげるとひたすらついていくおおらかな奥様の姿を描いたドラマです。

全編ほのぼの路線は一貫していますが、「ゲゲゲの鬼太郎」がテレビアニメとなり大ヒットするまで極貧生活にあえぐ売れない漫画家時代、そしてテレビアニメとなり大ヒットしてからは超売れっ子として締め切りに追われる超多忙な時代、そして故郷の鳥取県境港市に水木しげるロード・水木しげる記念館も完成し、地元に錦を飾り暮らしもすっかり落ち着いた近年の姿が描かれます。

このドラマのどこにそんなに引きこまれる魅力があると思われるでしょう。

◆私がこのドラマを見始めたわけは

そもそも私がこのドラマを見始めたのは、私がゲゲゲの鬼太郎のファンだったということと、水木しげるの故郷境港が懐かしかったからです。

私は元々が青森の神社の家系に生まれせいか、子供の頃から目に見えないものや超自然的なものに惹かれていました。そしてゲゲゲの鬼太郎など水木しげる漫画の愛読者だったこともあり、「ゲゲゲ」のフレーズが気になっていました。どうして「ゲゲゲの女房」なんだろうと、その題名がずっと頭にひっかかっていました。

また私は5年ほど前、水木しげるの故郷鳥取県境港市での仕事のため当地へ約半年間赴任したことがあります。主人公布枝さんの故郷島根県安来市の目と鼻の先、鳥取県米子市のビジネスホテルから毎日車で30分の境港市に通ったものです。

その時目にした境港市から安来市にかけての風景は、他のどこの地方とも違う独特な懐かしさを感じるところでした。穏やかな日本海の砂浜、島根半島と中海がどの地からでも目に入り、彼方には形の良い大山があります。

また大変静かで寂しい雰囲気があり、夜は町中が闇に包まれさらに不気味さを増します。初めの頃に境港の国民宿舎に宿泊していた時など、本気で座敷わらしでも出るんじゃないかと夜眠れないこともあるほどでした。

もちろん境港市のメイン通りである水木しげるロードにも行き、鬼太郎のブロンズ像も撫でてきましたので、これらが今では懐かしく感じられるのです。そんなこともあり、このドラマがまるで自分の故郷のお話のように感じられたのです。

◆奥様布枝さんの視点で描く水木しげるの実生活

 水木しげるは戦時中ニューギニアに従軍します。何かというと上官からびんたと罵声をくらう理不尽そのものの軍隊生活、マラリアで生死をさまよい左腕を失ったり、自分を除いて部隊の仲間が全滅するなどの極限状況にありながら、何としても行き抜くという強い意思によって帰還しました。この辺りのことは、今回のドラマでは描かれません。物語はあくまで主人公の奥様布枝(劇中では布美枝:ふみえ)さんの視点で進みます。

布枝さんが故郷島根県安来市で、水木しげるとお見合いし、そのわずか5日後には挙式しさらに翌日には住居のある東京調布市に旅立ち、この水木しげるとの貧しいながらも明るくそしておおらかに毎日を生きる暮らしがスタートします。

◆今では考えられないほどの極貧生活

 さて現在放送中の場面では、漫画を描いても描いても売れず、原稿を持ち込んだ先の出版社からは原稿にケチをつけれられては原稿料を値切られるといった苦労が繰り返されています。

その出版社も敢え無く倒産してしまい、溜まっていた原稿料がぱーになったりします。住まいの代金も滞り、不動産屋に立ち退きを迫られます。

今度こそはと言っては何度も新しい作品を描きますが、ことごとく失敗に終わります。

米びつが空になり食べるものにも困ります。電気代も支払えず電気を止められたりします。ストーブも夜しか点けられないなど、信じられないほどの極貧生活を見せてくれます。主人公が風邪で寝込んだ際、鼻をかもうにも、現金が全く無く、ちり紙を買うのも我慢するという有り様でした。

しかしこんな苦しい生活の中で、あてにしていた原稿料が貰えなくなるなどの不遇にあっても「仕方ない、とにかく俺は漫画家だ。漫画を書くしかない。」と言って、あらためて次の仕事に打ち込みます。

倒産してしまった出版社の社長にも「仕方ないですな。またやり直すしかないですな。」と言って、相手を責めるわけでもなく、その出版社社長を信じた自分の失敗だと受けとめます。そしてすぐに次にどうするかだけに気持ちを切り替えます。

また本当は食べるのが大好きだというのに、出されたものは何でも文句を言わず食べます。本当はかなりの大食いらしいのですが、ほんの少しの食事でもいつも「この○○○はうまい。食べるものがあるだけありがたい。」と言う調子です。ともかくそのたくましさには圧倒されます。

家計を預かる主人公の方が、原稿料を値切られたり踏み倒されたりする度に、普段の大人しさに似合わず憤りいきりたちます。でも平静を装う水木しげるの方こそ本当は内心一番つらい思いをしていることに思い至り、「お父ちゃんは強いね。このお父ちゃんを信じてついて行けばきっと大丈夫だね。お父ちゃんが何とかなると言うならきっとそうだよね。」といつまでもくよくよなどしていないのです。

◆あの水木しげるの実像がたっぷり

左腕が無い水木しげるは、奇妙なまでに体をよじって肩口で原稿を抑える独特なスタイルで仕事をします。汗水が落ちないようにタオルを鉢巻にしながら必死の形相で漫画を描きます。寝る間も惜しんで一心不乱に原稿に向かう姿は、鬼気迫る迫力があります。

この水木しげるの姿を見た主人公は「正直感動しました。精魂こめてここまで集中して一つのことに取り組む人間を見たことがありませんでした。背中から立ち上る不思議な空気、今で言うオーラみたいなものに吸い寄せられる感じ、次第にその姿に尊敬の念を抱くようになりました。」と心底思い、一貫して水木しげるを支え続けます。

また水木しげるは自分の描きたい漫画しか描かないというわけではなく、時には少女漫画を描いてみたり、忍者ものを描いたり、表紙を美男美女にしてみたり、出版社の求めに応じてかなり柔軟に対応します。妖怪漫画しか決して描かないのが信念なのかと思っていましたので、その柔軟性と幅の広さがとても意外に感じました。

いくら自分が描きたい作品があっても、売れなければ自分達の飯のタネにならないことをよくわかっている現実主義者です。お客の求めに応じるのは、決していやいややっているわけでも仕方なくやっているのでもありません。きっとそれも良い経験になるし、それを喜んでくれる客がいるなら、自分の作風と違うものでも喜んで描く姿に意外性を感じます。

奥様曰く「水木は何としても行き抜くんだという気持ちがことの他強い。」のだそうです。この水木しげるの生きる力、たくましさが何度も何度も主人公の口から聞かれます。

◆夫婦で連合艦隊を再建してみせる

水木しげるのすることには主人公と視聴者が良くも悪くも驚かされることが多いのですが、それよりも全編通じて一番私が驚かされるのは主人公布枝さんのおおらかさです。

水木しげるがやっとの思いで稼いだなけなしの原稿料を帰宅途中に見つけたプラモデルの戦艦を買うのに遣ってしまったことがありました。

そして「いいか。これから連合艦隊を再建するぞ。」と言う水木しげるに対し、「そんな軍事予算がどこにあるんですか!」と初めこそ怒ります。

しかし手の不自由な水木しげるが細かいプラモデルを作るのに難儀しているので、少しだけと言って手伝ってみると「あれっ、意外に面白いものですね。」と言って遂には一緒になってプラモデルの組み立てに熱中してしまいます。

その姿に、水木しげるも救われる想いがしていたのではないでしょうか。時には極貧生活を忘れされてくれるこんなひと時も必要だったのでしょう。

◆ゲゲゲの女房に教えられたこと

さてあらためてこのドラマ、なぜにこれだけ見る人を惹きつけるのか考えてみます。

ドラマは全編のうち半分が過ぎようという時期、まだまだ漫画がヒットする兆しは見えません。

 ですが終始一貫して主人公も水木しげるもそのたくましさとおおらかな態度に変化がありません。一瞬驚いたり、心配したりすることがあっても、直後には笑顔で「なんとかなりますけんね。」と安来弁鳥取弁で励まし合います。心配しても何もいいことあるわけじゃなし、ひたすら頑張ろうと気持を切り替えます。

 この私たちの時代、努力してもなかなか実を結ばず、苦しいことばかり起こる時にこそ、目の前のことに左右されずにどっしりと腰を据えてなすべきことをなさなければならないと思います。

 だからこそ何があっても動じないで、笑顔を絶やさず、人との和を大切にし、自分の仕事のためにひたすら努力を重ねる、また耐えるところはじっとしかし決して無理せず自然体で耐える水木夫妻の姿に、心打たれるのは私だけではないでしょう。

 主人公が真冬の冷える屋外で大根を干しているシーンで、「こんな寒いところにいると体に障るぞ」という水木しげるに対し「干し大根は冷たい寒風に当たれば当たるほど、甘味が出るといいます。」と言った言葉がとても身にしみます。

 そしてもうひとつ、主人公の祖母が、幼少時の寝物語に何度も語ってくれたお化けの話や怖い話。

水木しげるも子供時代にのんのんばあから妖怪の話などを聞いてきた体験に、妖怪漫画家になったルーツがあります。

私も幼少時に神主の祖父や祖母に聞いた怖いお話にいつも震えていたことを思い出しました。奇しくも主人公の祖母の言葉「世の中には目には見えないものがあることを忘れてはいけんよ。」この言葉を聞き、現代人が陥りがちな、何でもわかっているし、目に見えている世界が世の中のすべてだというような思いあがりを直し、謙虚にならなければという思いが強くなりました。そしてまた目には見えない細やかな人の心・気持ちに意識を向けさせてくれる秀作だと思いました。     (文責:赤沼)